飲みすぎ注意!抜け毛とアルコールの関係について徹底調査
働き盛りの人にとって、仕事でお酒を飲まなければならない場面は避けられません。しかし、「アルコールは髪の毛にとって良くない」という話をよく聞くことがあります。抜け毛の悩みを抱える人には、とても不安なのではないでしょうか。そこで今回は、アルコールと抜け毛の関係について詳しく見ていきましょう。
アルコールは抜け毛の原因?
飲酒がケラチンの合成を阻害する?
飲酒は抜け毛の原因となるのでしょうか。この点について、次のような説明をされることがあります。
・髪の毛の原料は「ケラチン」というタンパク質である
・タンパク合成は肝臓で行われる
・しかし飲酒をすると肝臓がアルコール分解にエネルギーを使うため、タンパク合成ができなくなる
・そのため飲酒をするとケラチンが不足し、髪が細くなって抜け毛が起こる
一見するともっともらしい説明ですが、この説明には重大な誤りがあります。なぜなら、ケラチンの合成は肝臓ではなく、表皮細胞で行われるからです。たしかにタンパク質の合成は肝臓の重要な機能ですが、すべてのタンパク質が肝臓で合成されるわけではないのです。髪の毛の原料となるケラチンは、頭皮の毛母細胞内で合成されます。したがって、飲酒がケラチン不足を直接に引き起こすことはありません。
参照:「ケラチン蛋白質の生化学」
アルコール依存症の人はみんな抜け毛が多いのか?
飲みすぎがもたらす悪影響
アルコールの多量摂取者が全員はげているのか?と聞かれたら、答えはNOです。つまり、AGAの遺伝要素や肝臓の機能も人によって違う為、全員が同じ結果にはならないという事です。
もっとも、お酒の飲みすぎは髪にも良くありません。アルコール多量摂取は、抜け毛の間接的な原因となります。多量のアルコールを摂取することで体調不良を招き、頭皮の血行が悪くなります。その結果として髪に十分な栄養が行き渡らなくなり、抜け毛が増えてしまうことがあるのです。
たとえば、飲酒をしてから寝ると眠りが浅くなります。ある実験では、飲酒後の睡眠と非飲酒後の睡眠を比較して、脈拍数や動脈中の酸素飽和度(SpO2)が検査されました。非飲酒後に比べて、飲酒後の睡眠では脈拍数が上昇し、動脈中の酸素飽和度が低下したという結果が出ました。このことから、飲酒後の睡眠では体内の酸素供給のバランスが悪化して眠りが浅くなることが分かります。
参照:「飲酒が睡眠時の呼吸障害と脈拍数に及ぼす影響」
しかし髪の成長を促す成長ホルモンは、睡眠時に分泌されます。そのため、アルコール多量摂取によって眠りが浅くなると、成長ホルモンの分泌が阻害される恐れがあります。アルコール多量摂取によって、髪の成長が滞ってしまう可能性があるのです。もっともこれは、間接的な影響にすぎません。抜け毛が増えるかは個人差があり、お酒を飲みすぎる人のすべてが抜け毛に悩むわけではないのです。
タバコがもたらす悪影響
同じようなことが、タバコについても言えます。たとえば、喫煙によってビタミンC消費が増加することが知られています。ある実験では、被験者を能動喫煙者・受動喫煙者・非喫煙者にグループ分けして、グループごとに血しょう中のビタミンCの量を検査しました。すると、能動喫煙者・受動喫煙者ともに、非喫煙者に比べてビタミンCの量が著しく低いことが分かりました。
参照:「喫煙とビタミンC」
ビタミンCには、抗酸化作用があります。そのためビタミンCが不足すると体内の酸化が進み、老化が早まってしまうのです。老化が早まることの悪影響は、髪にも及ぶ場合があります。加齢による毛髪量の減少が早まり、抜け毛が増える可能性があります。もっとも、アルコールの場合と同じく間接的な影響なので、実際に抜け毛が増えるかは個人差があります。
しかし、 タバコを吸うと交感神経が刺激され、血管が収縮する為、血液循環は悪くなります。血行が悪いと十分な酸素や栄養素が運ばれないので 頭皮の血行不良が起こります。これは抜け毛の原因として十分な理由です。
薄毛対策でアルコールの多量摂取を控える理由とは(抜け毛が多い=薄毛ではない)
薄毛(AGA)が起こるメカニズム
ここまでは、アルコールの飲みすぎやタバコによる体調不良が原因となり、抜け毛が増えてしまう可能性について説明してきました。抜け毛が多くても、抜けた毛の分が生えてくれば薄毛にはなりません。薄毛とは、成長しきれていない幼い毛が多く抜け、新たに髪が成長していかないという、 ヘアサイクルの異変によって起こります。
ここからは、抜け毛と区別して「薄毛」について説明していきます。ここでいう薄毛とは、遺伝因子や男性ホルモンのバランスによって引き起こされる「男性型脱毛症(AGA)」のことです。
AGAが起こる引き金は、「ジヒドロテストステロン」という物質です。ジヒドロテストステロンは、男性ホルモンの一種テストステロンがアンドロゲン受容体と結びつくことで生成されます。アンドロゲン受容体は頭頂部や前頭部に集中して存在しているので、AGAが起こる部位も頭頂部・前頭部に限られます。なお、アンドロゲン受容体が多いか少ないかは、遺伝によって決まります。
AGAの治療には、ミノキシジルやプロペシア(フィナステリド)といった薬剤が使われます。このうちプロペシアは、AGAの引き金であるジヒドロテストステロンの生成を抑制することで、AGAの症状を緩和します。
アルコール多量摂取が薄毛(AGA)にもたらす影響
なお、肝臓がアルコールを分解する際に生成される「アセトアルデヒド」という物質について、「AGA発症の引き金であるジヒドロテストステロンの生成を促進する」という説明がよくされます。アルコール多量摂取がジヒドロテストステロンを増加させ、AGA発症の原因になるという説明です。
しかし、その真偽を確かめるため学術論文を検索しても、この点について言及した論文は見つかりません。そこで日本毛髪科学協会の電話相談を利用して質問してみました。すると次のような返答がありました。
・アセトアルデヒドとジヒドロテストステロンの相関関係を明確に示した 研究結果はまだない
・飲酒によってジヒドロテストステロンが増加することの 医学的根拠は今のところ認められない
・ただ、飲みすぎによる体調不良が間接的に AGAの症状を悪化させる恐れは十分にある
つまり、アセトアルデヒドによる作用かどうかは確かではありませんが、前頭部や頭頂部に発症したAGAが飲酒によって悪化する可能性はあるということです。男性ホルモンが原因で起こるAGAについても、 アルコール多量摂取は悪影響を及ぼすのです。前頭部・頭頂部の薄毛だからといって、アルコールは無関係と考えるのは危険です。
ビールは注意!?抜け毛予防とアルコールの上手な付き合い方とは
肝臓をお酒から守ろう
肝臓がアルコールを分解する際に、AGAの引き金であるジヒドロテストステロンが増加するかについては、まだはっきりと分かっていません。しかし、アルコールの分解によって肝臓に負担がかかることは確かです。本来なら肝臓によって体内に取り込まれていたはずの栄養素が、アルコールに邪魔されて吸収されないままになってしまうのです。
なかでもビールは禿げるという噂を耳にします。ビールは糖質が多い為、皮脂の過剰分泌に繋がるという説です。こちらについても 研究された学術論文は見つかりません。アルコール摂取によって血液循環は良くなりますので、適量のアルコール摂取は頭皮にも健康の為にも良いと考えられます。しかし、毎日の様にビールを多量に摂取した場合はカロリー超過となり、肥満や高血圧、肝機能障害など別の病気を心配しなければならなくなります。
そこで、お酒は飲みすぎないよう適量にとどめておくのがベストです。とはいえ、会社勤めの人だと仕事で飲まなければならないこともあるでしょう。そこで、 アルコールによる負担から肝臓を守るために、お茶を飲んでカテキンを摂取しましょう。アルコールで弱った肝臓に生じる栄養不良を補うには、ビタミンやミネラルの摂取が効果的です。
参照:「肝臓の機能と「食」と「栄養」のバイオサイエンス」
抜け毛予防という観点からは、毛母細胞の分裂を助ける亜鉛を摂取するように心がけましょう。1人暮らしの人など、食事では摂取しきれない場合には、各種育毛サプリを利用すると効果的です。抜け毛予防のためにも肝臓を守るためにも役立つビタミン・ミネラルを、バランスよく摂取することができます。
ビールは体が冷える
なお、適量のお酒なら、体を温めて血行を促進してくれます。頭皮の血行も良くなるので、髪に栄養が行き渡り育毛にも良い効果をもたらします。もっともビールは冷やして、しかもゴクゴク飲むため、血行促進という観点からは効果が減少してしまいます。1杯目はビールでも、2杯目以降は常温で飲む日本酒やワインのほうが良いでしょう。
アルコール含有のシャンプー、育毛剤は抜け毛を増やす?
シャンプー・育毛剤に含まれるアルコールがもたらす悪影響
お酒だけではなく、シャンプーや育毛剤に含まれるアルコールにも注意が必要です。たとえば、 高級アルコール系シャンプー に含まれる 合成界面活性剤 にはアルコールが使われており、 頭皮に強い刺激を与えます。また、男性向けの育毛剤にも清涼感を付加するためにアルコールが使われていることがあり、こちらもやはり頭皮を強く刺激します。
ではアルコールで頭皮が刺激されると、いったいどのようなことが起こるのでしょうか。アルコールフリーの育毛剤を検索すると、「ブブカ 」という商品がヒットします。そこで「ブブカ」のメーカーに、アルコールの刺激が頭皮に及ぼす影響について聞いてみました。
得られた回答は、以下の通りです。
・敏感肌の傾向がある人にとって、 アルコールの刺激は強すぎる場合がある
・アレルギーを持っている人にとって、 アルコールがアレルゲンとなる場合がある
・アルコールの影響で荒れた頭皮は、乾燥のせいで 常在菌のバランスが崩れる
・その結果、頭皮環境が悪化して髪に栄養が行き渡らなくなり、抜け毛の原因となる
敏感肌やアレルギーの傾向がある人にとっては、シャンプーや育毛剤に含まれるアルコールが頭皮環境を悪化させる可能性があるということです。
まとめ
それでは最後に、今回ご紹介した内容をまとめます。
・飲酒やタバコは、体調不良を引き起こすことで間接的に抜け毛の原因となる
・お酒は飲みすぎず、適量にとどめよう
・肝臓をお酒から守るために、サプリでビタミンやミネラルを補うのも効果的
・敏感肌やアレルギーを持つ人は、アルコール入りのシャンプーや育毛剤は避けよう
お酒が抜け毛にもたらす影響は、多くの人が関心を寄せる事柄です。そのため様々な情報が飛び交っていますが、あまり惑わされないようにすることが大切だと思います。髪や頭皮は体の一部だということを前提に、お酒と上手に付き合って体全体の調子をととのえることを心がけましょう。